
朝の光と、届いたサイン
床に四角く落ちる光、まだ冷たい木目。コーヒーの湯気を見送りながら、散らかったティッシュをつまむ🌤️。
「Hika、ゴミ捨ててくれる?」
小さな靴下がとてとて。腕を伸ばしてフタを開け、ぽとり—音は小さいのに胸の奥で大きく響く。
続けて「扉、閉めてみる?」と声をかける。一拍おいて取っ手を見つめ、指先でつまむ。ゆっくり、カタン。
「椅子に座るよ」には、脚を手で押さえて向きを直し、ちょこん。三つの合図が三つの行動に変わった。言っていること、ちゃんとわかってるんだね。すごいね。
合言葉は「待つ勇気」
ここ数日、僕の中で光っている言葉がある。待つ勇気。
急かさず、数秒の“考える時間”を渡すと、Hikaは自分のルートで答えを見つける💡。
目、手、表情。言葉より先に動くサインを見逃さないように、僕は余計な一言を飲み込む。
その静けさのあとの一歩は、いつもより少しだけ誇らしげだ。僕の役目は、背中を押すことじゃなく、道を広げておくことかもしれない。
すれ違いも学びに変わる
もちろん、毎回すんなりいくわけじゃない。
昨日は「ゴミ」という単語だけ強く残ったのか、大事なブロックがゴミ箱へ向かっていて、慌ててストップ。
胸に当てて見せる。「これは宝物、こっちはゴミ」
Hikaは眉をへの字にして考え、うん、と小さく頷く。階段は一段上がって一段戻る。でも全体では確かに登っている。
キッチンの妻は、そんな僕らを静かに見守っている。扉が閉まる音に重なる拍手。僕も手を広げて「できたね」。
ぱちん、と控えめなハイタッチ。家の空気が少し明るくなる。
明日に渡す余韻
食卓ではコップを両手で持ち、目だけで「いい?」と聞く。
「ありがとう、置けたね」と返すと、口角がふっと上がる。
靴下は今日は自分で引っぱりたいらしい。布の感触を確かめる顔が真剣で、朝の光が頬に細い線を描いた。
できることが増えていく音は、とても静か。だからこそ、聞き逃したくない。
今日の合図は、ゴミ箱、扉、椅子。そして、ちいさな誇らしさ。明日は何が増えるだろう。急がなくていい。Hikaの速度でいい。僕らの家は、そのテンポで十分やわらかい📝。